同じ“塗装工事”でも、屋根と外壁では役割・下地・劣化要因・使う材料・施工手順が大きく異なります。ここを押さえると、見積比較や品質管理の目が格段に良くなります。
1|役割の違い
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屋根:直射日光・雨・風を最前線で受ける。防水・遮熱・温度変化吸収が主目的。
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壁面:雨水を流しつつ意匠保持・微細クラック追従・防汚が主目的。
2|下地(素材)の違い
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屋根:スレート(カラーベスト)、金属(ガルバ・トタン)、セメント瓦、モニエル等。
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壁面:窯業系サイディング、モルタル・リシン、ALC、金属サイディング、タイル目地など。
→ 素材ごとにプライマー(下塗り)の種類が変わる。
例)金属屋根=防錆形エポキシ、チョーキングの強い壁=浸透形シーラー、モルタルの段差調整=フィラー。
3|劣化のメカニズム
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屋根:UV・高温(夏は表面70℃超も)・雨打・結露・苔。縁切れや金属部の錆が致命傷。
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壁面:UV・風雨・乾湿繰り返し・排気汚れ。ヘアクラックや目地シーリング劣化が起点。
4|下地調整と補修
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屋根
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高圧洗浄→タスペーサーで縁切り(スレート)
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釘/ビス浮きの増し締め・シーリング、棟板金の下地木交換
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金属錆部のケレン(ST2〜3)→防錆プライマー
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壁面
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目地シーリング打ち替え(三面接着防止)
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クラックUカット+シール/樹脂モルタル
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素地の段差・巣穴はフィラーで平滑化
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5|使用する塗料システム
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屋根向け:耐候性・遮熱性重視
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2液型シリコン/フッ素/無機系、遮熱トップの採用が一般的
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下塗りは防錆・高付着タイプ必須
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壁面向け:意匠と追従性・防汚性重視
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ラジカル制御・シリコン・フッ素・無機、低汚染・親水クリヤー
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吹付や多彩仕上げ、**艶調整(3〜5分艶)**でムラを抑制
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6|施工条件・安全
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屋根:勾配・墜落リスク→全面足場+親綱・フルハーネスが前提。
風・直射で塗膜のレベリングが難しいため、時間帯と希釈率の管理がシビア。 -
壁面:飛散・近隣配慮(車・植栽)→メッシュ養生と飛散テスト必須。
目地・開口部周りは養生精度が仕上がりを決める。
7|防水ディテールの考え方
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屋根:谷板金・棟・重ね代・役物(雪止め・トップライト)周りに下塗り適合/シール相性を確認。
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壁面:サッシ周り・水切り上・幕板・入隅は先打ちシール→塗装→止水確認の順で。
8|美観・機能の狙い
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屋根:遮熱・反射で小屋裏温度を下げ、高艶で雨垂れ汚れを洗い流す設計が多い。
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壁面:艶抑えで波打ちを目立たせず、低汚染性で雨筋・排気汚れを防ぐ。
9|耐用年数とメンテ周期(一般的目安)
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屋根:8〜12年(高耐候・遮熱で延伸可、金属は防錆状況で差)
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壁面:10〜15年(下地・立地・艶で変動)
※海沿い・工業地帯・日当たり強の面は短く見積る。
10|見積比較で見るべきポイント
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下塗りの種類と回数(素材適合か/増し塗り規定)
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屋根:縁切り・棟板金補修の有無
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壁:目地シール“打ち替え”か“増し打ち”か
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塗料グレード(シリコン/フッ素/無機/遮熱)と艶
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付帯部(雨樋・水切り・シャッタBOX)の範囲
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保証年数と対象(色あせは除外のケース多い/付帯部は別規定)
11|よくあるNGと回避策
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屋根スレートで縁切り不足→雨水滞留・凍害
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金属屋根へ防錆下塗り未使用→早期剥離
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壁のチョーキング未処理で上塗り密着不良
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目地シールの三面接着→早期破断
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夏場の過乾燥・過希釈→塗膜痩せ
→ 素地診断→下地処理→適合プライマー→上塗り規定膜厚の順守が最強。
12|チェックリスト(保存版)
屋根
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釘・ビス浮き/棟板金の下地木/縁切り部材/防錆プライマー銘柄
壁: -
目地シール打ち替え範囲/クラック補修工法/艶度指定/低汚染仕様
共通: -
洗浄方式・圧力/乾燥時間と養生計画/飛散対策/保証範囲
屋根は防水・遮熱・防錆、壁は意匠・追従性・防汚。
同じ塗料でも“場所”が変われば考え方が変わります。
見積・仕様書で下地処理と下塗りを確認し、屋根は“縁切り/防錆”、壁は“目地/クラック”を優先管理。
この順序で進めれば、仕上がりと耐久の両立にぐっと近づきます。